私的感想:本/映画

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『夜は短し歩けよ乙女』 森見登美彦

2007-04-05 22:54:04 | 小説(国内男性作家)


知らず知らずの内に主役になっている「黒髪の乙女」と、彼女に片思いをして後を追いながらも致命的にすれちがってしまう先輩の「私」。京都を舞台に、奇妙な人物たちがくりひろげる青春恋愛小説。
2007年本屋大賞2位を獲得。新進注目作家、森見登美彦の新境地。
出版社:角川書店


タイムリーなことに、今日発表された本屋大賞で見事2位を獲得した本作。
なかなかキュートかつチャーミングで、森見節も炸裂する偏屈なラブコメである。

主人公はふたりで、大学生の女の子と、それに惚れて彼女の後をつけて回す妄想大学生という感じである。
前者はともかく、後者の妄想大学生は『太陽の塔』で出てきたようなキャラとほぼ同じである。その過剰な語りは相変わらずキレがあり、今回も存分に楽しませてもらった。

だが一方の女性キャラは、正直言って、第一章ではあまりなじむことができなかった。彼女が持っているふわふわした感じがいまひとつしっくり来なかったのだ。だが章が進むにつれて、そのふわふわした感じがクセになるから不思議である。
彼女は言ってみれば天然キャラだ。「なむなむ」なんて普通の人は言わないだろう。でもそんなのほほんとした彼女の個性が読み進むにつれて、愛らしくなってくる。
天然少女に、偏屈大学生。この個性あるキャラを好きになれたことで、物語を追うのが、途中から楽しくて仕様がなくなった。

メインの二人以外にも、アクの強いキャラは多い。森見登美彦はこういった個性的でへんてこな人物を描くのが抜群にうまい。
そしてその個性的なキャラを配し、そんなアホな、とでも言いたくなるような妄想とも幻想ともいえぬ世界を展開していく。火鍋大会といい、学園祭といい、実にアホだ。しかしそんな不思議な展開こそが痛快な作品といえるだろう。

さて本書はラブコメだけあり、章を追うごとに報われない疾走ばかり続ける男と女の子の間が縮まってくる。ベタではあるが、そのあたりが実にいい。
たとえば「深海魚たち」のラストシーンのふたりの間合いは、鮮やかで余韻が残る。それに「御都合主義者かく語りき」のラストも非常に美しい。
言ってしまえば本作すべてご都合主義的展開とも言えるが、そのご都合主義が本作の心地よさにもなっていると思う。

個人的には本作の交互に語られる文体が目を引いた。この文体こそがふたりの行く末がうまくいっているのかどうかを教えてくれる。なかなか凝った構造だと読み終えた後で感心する。

『太陽の塔』とは似ているが、また異なる味わいの作品。森見登美彦、実に恐るべき作家である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


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